居眠りばかりしている主任の正体
ある官公庁のシステム開発を行っていたときのことです。
そのシステムは電子政府の目玉となることが期待されていた案件で、元請けは電話会社系のSIerであるN社、その下に4社のベンダーが入る形で受注しました。
私たちの会社は、下請けとしてN社のT主任の下に入ることになったのですが、T主任はちょっと困った人でした。
いつも寝ているT主任
T主任は、30歳くらい、髪はスポーツ刈りで痩せていて、魚屋さんのような感じで同じ業界には見えない人でした。
ただ、人柄は良さそうで話しやすそうな人でした。
N社は元々半官半民の会社だったので、悪い意味でお役所的で、あまり動いてくれないうえにやたらといばりたがる人が多かったのですが、T主任は偉そうにするところはなく、彼のチームに入ったことは運が良かったと思っていました。
しかし、それが誤りだと直ぐに気づきました。
開発に入ったばかりで、連日朝から夜までエンドユーザやベンダ間の打ち合わせを行っていたのですが、T主任はずっと居眠りしているのです。
打ち合わせが始まると、T主任は、直ぐに目をつぶって腕組みをして何か考えているような姿勢をとります。
そのまま、何もしゃべらずじっとしています。
議論をしているうちに行き詰まって、T主任に決断を求めるために話し掛けても、反応がありません。
体を揺さぶるとようやく起きて「ごめんなさい。なんの話でしたっけ」と言うので、これまでの議論の要点を説明するということが何度もありました。
最初は疲れているのかと思いましたが、すべての打ち合わせで居眠りしています。
しかも打ち合わせが始まると直ぐに居眠りを始めます。
しかもエンドユーザとの打ち合わせでも同じ状態でした。
最初は我慢していたお客様も限界を超えたようで、会議の後、私だけが呼ばれて「Tさんはいつも寝ているよね。もう連れて来ないでくれるかな」と言われました。
T主任の正体
エンドユーザは、元々は私たちの会社の直受けのお客様で、今回のシステムの担当者の方たちは、以前一緒に仕事をしたことのある人たちでした。
それでお客様は私に直接クレームを出してきたのだと思います。
しかし、この案件では、私はあくまで下請けなので、元請けの体制に口出しできる立場ではありません。
それで困って、N社の別のA係長に相談することにしました。
私 「T主任のことでお客様からクレームをもらってしまいました。」
A係長「どんな内容?」
私 「いつも居眠りしているので、来させるなと言われてしまいました。」
A係長「またか。前のプロジェクトでも同じだったんだよね。でもあいつを外すのは難しいんだよ。」
私 「どうしてですか。」
A係長「あいつは東大卒だから、キャリアなんだよ。」
当時、N社は民間企業になっていましたが、民営化の後しばらくは半官半民だったときの制度を引きずっていて、採用がキャリア枠とノンキャリア枠に分かれていたそうです。
T主任はキャリア枠で採用されていたので、多少の問題があっても動かすことはできないというのです。
仕方がないので、お客様には事情をご説明して渋々ながらご理解してもらうことができました。
T主任はプロジェクトが終わるまで、居眠りを続けていました。