オフショア開発会社の公的認証の信用度

ベトナムの候補企業は最上位の認証を受けていた

ベトナムでオフショア開発の発注先を探していたときのことです。
最有力候補の会社は、CMMIの最上位であるレベル5を取得していました。

CMMIというのは、米国のカーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所(SEI:Software Engineering Institute)が開発した「能力成熟度モデル統合(Capability Maturity Model Integration)」のことで、組織がソフトウェア開発プロセスを適切に実施する能力を示しています。

ちょっと分かり難いのですが、何も管理していないレベル1から、最適化に向けて常に改善を繰り返すレベル5まで5つのレベルが定義されています。

レベル1初期
レベル2管理された
レベル3定義された
レベル4定量的に管理された
レベル5最適化している

私が所属していた事業部では、やっとレベル3をとったばかりで、認証を受けることの難しさを思い知らされていました。
審査のために規則やマニュアルを変更し、それに合わせて終わったプロジェクトの成果物を修正し、最後は審査員のヒアリングで余計なことを言わないように、各PMは事前練習をさせられていました。
そうして、やっとレベル3を取得できたのです。
ですから、幹部がそのベトナムの会社でプレゼンを聞いてくると、皆「素晴らしい。やっぱりレベル5は違う。」とその会社を褒めちぎっていました。
そして、その会社はパートナーとなり、私の部署からプロジェクトを発注することになりました。

想像と異なっていたレベル5の組織

私自身も初めて見るレベル5の会社に興奮していました。
できれば、ノウハウを盗んで自分の組織に適用したいと考えていました。
それで機会があるたびに、マニュアルやプロジェクト管理方式を見せてもらいました。

しかし、想像とは違って、見せてもらったものはあまりたいしたものではなかったのです。

プロジェクト管理システムがあり、要件や進捗、不良などを入力できるようになっているのですが、あまり使われていないようなのです。
例えば、私のプロジェクトの要件は2件しか登録されていませんでした。
1つ目は「業務要求事項を満たすこと」、2つ目は「納期を守ること」で、どんなプロジェクトでも使える内容です。
不良も、日本側で認識している不良で登録されていないものがたくさんありました。

認証は信用してはいけない

いろいろプロジェクトメンバに話を聞くうちに、なぜこの会社がレベル5を取得できたのか分かってきました。

この会社で使っているプロジェクト管理システムは、米国のコンサルタント会社に設計を依頼したもので、CMMIの枠組みに沿って作られていました。逆にCMMIに関係ないものは削ぎ落としていたのです。

そして認証を受けるときには、厳格にルールを適用した小規模なプロジェクトを選んでいました。
ですから、不適合があっても直ぐに対応できたそうです。

私の会社は、長い期間に渡って積み重ねてきたルールと矛盾しないようにCMMIのルールを導入しなければなりませんでしたし、審査対象プロジェクトをこちらから指定することはできなかったので大変だったわけです。

しかも、私の会社では一度ルールを作ると、それが守られているか品質保証部門等がチェックしますが、そのベトナムの会社では誰もチェックしていませんでした。

すごい仕組みを見ることができると期待していた私は、とても落胆しました。
それからは、他の公的な認証を取得しているという会社がいても、よく実情を確認するようにしています。