誘われると断れない性分ので、怪しい話には極力近づかないようにしています。
勧誘の電話なども最初に興味がないとはっきり言うように心掛けています。
話を聞くとどんどん断りにくくなるからです。
しかし、一度だけ逃げられなかったことがあります。

突然の入院

私がまだ26歳でしたから、1990年頃のことです。
急性肝炎で4週間入院したことがあります。

朝起きると、体がだるくて仕方がありませんでした。
最初は仕事の疲れが溜まったせいかと思ったのですが、全身に鉛の重りをつけたようなだるさは尋常ではありません。
家から一番近い病院に行ったところ、直ぐに入院させられました。

その病院はとても古いので、普段はそこから5分ほど先にある救急病院まで行っていました。
しかし、その日はとにかく歩くのが辛かったので、近い病院に行くことにしました。

入院して最初の3日間は、ずっと眠っていました。
この時期は、劇症肝炎に進行する恐れがあり、1%くらいの確率で死ぬ可能性があったらしいのですが、そんなことはまったく知らずに眠り続けました。

4日目になって少し回復してくると、今度は退屈で仕方がありませんでした。
なにしろ、治療は点滴を打つだけで何もやることがありません。

入院患者は長期入院の老人ばかりで、寝たきりの人が多く、話ができる人がまったくいませんでした。
急な入院で、本なども持っていなかったので、本当に暇を持て余していました。

同世代の入院患者

点滴の合間に喫煙所にタバコを吸いに行ったときにAさんと知り合いになりました。
Aさんは、私よりも1才年上で、胃潰瘍で入院していました。

胃潰瘍は現在では薬で治すことができるが、当時は抗潰瘍薬が開発されておらず、最悪胃の切除を行わなければならない重い病気でした。

年の近い私たちは直ぐに仲良くなり、お互いに暇なときは喫煙所に入り浸って話をしました。
Aさんは、営業をやっており、そのストレスで胃が悪くなったそうです。
私も残業が多かったので、仕事の愚痴を言いながら仲良くなっていきました。

お金儲けの話

知り合って1週間くらいが経った頃、突然、Aさんは「お金儲けに興味はないか?」と言い出しました。
それに軽い気持ちで「ないこともないですよ。」と答えると、Aさんは声を潜めて「実はいい話があるんだ。」と言いました。

Aさんの話は以下のようなものでした。

・とても良いアメリカ製の美容製品があり、これを売ると高額の手数料がもらえる。
・販売員(子)を勧誘すると、その販売員(子)の手数料の一部がもらえる。
・勧誘した販売員(子)が、別の販売員(孫)を勧誘すると、別の販売員(孫)の手数料の一部がもらえる。
・勧誘した販売員の数に応じてクラスが上がり、手数料率も上がっていく。

「マルチ商法じゃないですか。」とAさんに言うと、「親・子・孫の階層に制限があるからマルチ商法ではない」と答えました。

どちらにしても興味はないので、「仕事が忙しいので、こんなことをやっている暇はないですよ。」と言うと、「君は今のままの生活で良いのか。」、「僕は、このビジネスで絶対に成功するぞ。」と熱く語りました。

あまり、邪険にはできないので、一通り話を聞いた後、「そろそろ点滴の時間なので失礼します。」と言って逃げてきました。

逃げ場のない入院生活

それからが大変でした。
顔を会わせるたびに、しつこく勧誘してきます。

次第に私はAさんを避けるようになりました。
タバコを吸いに行くときは、Aさんがいないことを確認してから喫煙所に入るようにしました。
そして、1本吸い終わると直ぐに自分の病室に戻りました。

しかし、まったく顔を合わせないわけにはいきません。
それに、見張っているんじゃないかと思うくらい、私がタバコを吸っているとAさんが喫煙所に入ってくることが多くありました。
会うとしつこく勧誘が始まります。

ついに、断りきれなくて6千円の洗顔フォームを1つ買うことにしました。
でも、販売員になることは最後まで断り続けました。
Aさんも洗顔フォームを売れたことであきらめてくれたようでした。

この一件があってから、自分が勧誘に弱いということを再認識し、勧誘されたら即座に断るということを徹底するようになりました。

ちなみに6千円で買った洗顔フォームは、使わずに捨ててしまいました。