元号変更の日のトラブル

1989年1月7日は昭和天皇が崩御された日ですが、皆さんはその日に何をしていたか覚えていますか?
私ははっきりと覚えています。
トラブルの対応をしていたからです。

年次処理が異常終了

1989年1月6日(金)の夕方、事務所で仕事をしているとお客様から電話が掛かってきました。
「年次処理が異常終了したので、すぐに対処してほしい」
仕事始めから三日目で、まだ正月ボケが抜けきっていない頭が一瞬でシャキッとしました。

直ぐにお客様の事務所に行ってログリストを見せてもらいました。
異常終了の原因はデータ例外で、本来数字だけが設定されるべき変数に、数字以外の値が設定されたときに起こるものでした。

エラーとしては単純な内容ですが、問題はその値を設定しているのが、他社(S社)が開発したシステムだということでした。
他社が原因であると断定するのは相当慎重に行わなければなりません。
あとで「間違えでした」では済まされないからです。

お客様にお願いして、S社から弊社に引き継ぐファイルの中身を調べさせてもらうことにしました。
そして、引き継ぎ時点で既に不正な値が設定されていることが分かりました。

直ぐにS社の責任者に電話しましたが、夜12時を過ぎていたこともあり、連絡がつきませんでした。
そこで、翌日再度集まることにして、その日は解散することにしました。

起きたら天皇陛下が崩御されていた

朝起きてテレビを付けると天皇陛下が崩御されたとのニュースが流れていました。
その日は、全国民は喪に服するように訴えています。

これを聞いて私は、大変不謹慎ですが「これでトラブル対策の時間稼ぎができるのでは」と考えました。

早速お客様に電話を掛けると「対策会議は予定通りに実施します。ただし、事務所に入るときはなるべく目立たないように入ってきてください。」と言われました。

淡い期待は裏切られました。
睡眠不足なうえ、自社が原因ではないと分かったので、テンションはまったく上がりませんが、仕方がないのでお客様の事務所に向かいました。

薄暗いオフィス

地下鉄の駅から地上に出て驚きました。
人通りがまったくありません。車もまばらです。
こんな日に出歩いているがのとても不敬なことのような気がしてきます。

事務所に入るとブラインドが締め切られているにも関わらず、電灯はすべて消えていました。

私  「暗いですね。」
お客様「実は右翼が働いている会社をチェックしているらしいんですよ。」
私  「チェックしてどうするんですか?」
お客様「あとで、その会社に乗り込んで不敬であると言って、恐喝するらしいです。」
私  「なるほど、それで目立たないように出入りしろと指示されたんですね。」

その後、S社の人たちが来て、昨日の調査結果を説明しました。
最初は抵抗していたのですが、エビデンスが揃っていたので何とか納得してもらえました。

お役御免となった私は、また人影のまばらな街を帰って行きました。