トラブル発生時には関係者全員を集めろ

私が携わったプロジェクトでは「トラブル発生時には関係者全員を集めろ」というのが鉄則でした。
原因究明や対策検討を行っていくときに、必要になってから担当者を呼んでいると時間が掛かるので、最初から集めておいた方が良いという考え方です。

トラブルの影響を最小限に抑えるうえでは有効なやり方です。しかし、度を越すと非常に迷惑な考え方です。

夜の召集

夜8時を少し過ぎた頃でした。
その日にやっておかなければならない仕事が終わり、私は帰ろうとしていました。
突然、事務所の電話が鳴り、私は嫌な予感がしました。
この時間に電話を掛けてくるのは、私のお客様である可能性が高いからです。
他のプロジェクト宛であることを願いつつ受話器を取ると、やはり私のお客様でした。

お客様「処理結果がおかしいので、すぐに来て欲しい。」
私  「どこの処理結果ですか?」
お客様「XXXリストだよ。」
私  「そこはS社で、弊社はまったく関係ないところですね。」
お客様「それは知っているけど、一応来てくれないか。」
私  「分かりました。直ぐに伺います。」

自分に関係のないトラブルだと分かりホッとしました。
これなら直ぐに帰れるはずです。

解放されない

お客様の事務所に着くと、S社の担当者も来ており、早速会議が始まりました。
S社の担当者から簡単な状況報告がありました。

私  「XXXリストなら弊社はまったく関係ないですよね。」
S社 「はい、その通りです。」
私  「入出力ともにインターフェースがないので、暫定対策が弊社担当部分に及ぶこともないですよね。」
S社 「はい、絶対にありえないと思います。」

S社の担当者は、私の質問の意図を理解して、私に迷惑を掛けないようにはっきりと回答してくれます。
会議の終わった直後に、私はお客様に言いました。

私  「それでは、お手伝いできることはありませんので、申し訳ありませんが帰ってもよろしいでしょうか?」
お客様「いや、ちょっと待機していてくれない。」
私  「なぜですか?」
お客様「万が一ということもあるからね。トラブル発生時には関係者全員を集めろが鉄則じゃない。」

もう集まったじゃないと言いたかったのですが、非常時なので非協力的な態度をとると後で何を言われるか分かりません。
とりあえず、残っていることにしました。

ホテルへ強制連行

残ったからといってやることはありません。
S社の対策会議に一応出席しますが、黙って聞いているだけです。

そのうち、原因が分かり、プログラムの修正内容も決まりました。
ただし、本件はプログラムの再実行を最初から行っている時間がないので、帳票を出力する直前のファイルをツールで補正しなければならず、ファイル補正のやり方が非常に厄介でした。

補正のやり方が決まらないうちに夜3時を過ぎてしまい、一度会議は中断して、朝から対策会議を再開することになりました。

時間は遅くなってしまいましたが、これで帰れるとホッとしていたら、お客様が私を呼んでいます。

お客様「ホテルをとってあるから、一緒に行こう。」
私  「いや、近いのでタクシーで帰れますから。」
お客様「大丈夫。もうホテルを予約してあるから。」

かなり高級なホテルが予約されていました。
普通の出張なら喜ぶところですが、3時間寝るだけなのでカプセルホテルでも変わりません。

誰も「帰っていいよ」と言ってくれない

翌日は、ホテルからお客様の事務所に直行して朝8時から対策会議に出席しました。
とはいっても、私は座っているだけです。

午後になると、ファイル補正ツールが完成し、その実行に立ち会うためにお客様のデータセンターに移動しました。
そして、ツール実行、結果確認に立ち会い、すべてが終わり解放されたのはその日の夜11時過ぎでした。
それまで誰も「帰っていいよ。」とは言ってくれませんでした。

翌日、自社に出勤すると上司から「どこに行っていたんだよ。」と言われました。
一応、お客様のところに行っているとは伝えておいたのですが、プロジェクトメンバーが「今日はお客様のところに行く用事はないはずだ。」と言ったので、私が適当なことを言っているのではないかと思われていたそうです。