オフショア開発失敗事例16 品質保証部門の不合格が理由で納期遅延

品質保証部門(検査部門)は、独立した立場で製品の品質を検査し、問題があるときには製品の出荷を止める権限を持つ顧客にとっては頼もしい部門です。

しかし、オフショア開発の場合、開発部門と癒着し単なるお飾りになっているケースがよく見受けられます。

突然の検査不合格のメール

その日は、ベトナムのオフショア開発先に発注したシステムの納品日でした。
その会社は、いつも納期の夜に納品物を送ってくるため、日本側のスタッフは帰らずに待っていました。

午後10時にいきなりメールが届きました。
そのメールには「品質保証部門の合格が出ないので、納品できません」と書かれていました。
直ぐに「いつ納品できるのか回答をください」と返したのですが、オフショア開発先は「品質保証部門次第なので分かりません」と返信してきました。

納期には間に合わず、いつ納品できるのかもわからないでは到底納得できません。
直ぐにオフショア開発側のPMとTV会議を実施することにしました。

特採での仮納品も拒否

私 「今日の昼までは問題ないと言っていましたよね。何が起きているのですか?」
PM「品質保証部門が検査を行ったところ、不良が見つかったため、不合格となりました。」
私 「いつまでに対策が終わるのですか?」
PM「もう不良の対策は終わっていますが、再検査を受けなければならないです。」
私 「再検査はいつ終わりますか?」
PM「一度で合格できるか分からないので、いつまでとは約束できません。」
私 「現状の納品物を特採(特別採用)で渡してもらうことはできますか。」
PM「当社のルールで許されていないのでできません。」

特採というのは、顧客の許可を得て検査に合格していない製品を出荷することです。
顧客である私が依頼しているのに出荷できないというのは納得できませんが、オフショア開発側のルールを確認している時間はありません。

私 「それでは、検査計画書、検査チェックリスト、検査で摘出した不具合の内容を至急送ってください。」
PM「直ぐには無理です。時間が掛かります。」
私 「計画書やチェックリストは事前に作成済みですよね。なぜ時間が掛かるのですか?」
PM「・・・」
私 「納期遅延による契約違反を犯しているのを理解していますか?」
PM「・・・」
私 「このままではペナルティを請求しなければなりません。そうしないために誠意を見せてください。」

結局、オフショア開発側のPMは特採での納品を了承してくれました。

品質保証部門の実態

品質保証部門がそれほどの権限を持っているのであれば、発注元として検査計画書や検査チェックリスト、検査の進捗状況を確認しておかなければなりません。

別プロジェクトの仕様説明で、そのオフショア開発先に出張した際、品質保証部門の実態を確認しました。

その会社の品質保証部門は、プロセスQAとシステムQAに分かれており、プロセスQAは開発プロセスのチェックを行い、システムQAは実機検査を担当していました。

プロセスQAが行う開発プロセスのチェックの内容を見せてもらいましたが、開発に関わる各種統計情報を収集・分析してオフショア開発先の上層部に報告するのが主な仕事で、顧客である私たちにはあまり関係ない部署であることが分かりました。

そしてシステムQAですが、私の会社の品質保証部門と以下の点で異なっていました。

  • システムQAはPMの配下であり、開発部門から独立していない。
  • 検査計画書や検査チェックリストは作成せず、モンキーテストにより実機検査を行っている。

モンキーテストというのは、事前にテスト内容を決めずに思いつきで端末を操作するテストで、思いがけない不良を見つけるには効果的ですが、テストの網羅性・十分性は担保できません。

品質保証部門がPMの配下にあるということは、検査要員が開発部門に不利な判断を行いにくいということを意味しています。
しかも検査要員は入社2年目の若手で、とてもPMに出荷停止を指示できるようには見えません。

それなのに前回は、検査不合格を盾に納品を拒んでいました。
怪しいと思い、オフショア開発先のリーダの一人に聞いてみました。

私  「前回、本当に検査不合格だったの?」
リーダ「実は、開発側のテストで見つかった不良の修正が間に合わなかったんです。」
私  「じゃあ、検査不合格というのは嘘なの?」
リーダ「別のお客様で、検査不合格なら納品を延期しろと言われたので、同じ手が使えると思ったみたいです。」

その話を聞いた後、PMに「検査完了までが御社の仕事です。検査不合格は納期遅延の理由にはならないですよ。」としつこく念を押しておきました。

それから検査不合格による納期遅延はありませんでした。