TVを見ていると公務員採用試験Ⅰ種に合格したキャリア官僚が登場するドラマをよくやっています。
時には正義のために、時には悪のために、その高い地位と強い権力を振るう姿は痛快です。

私は長い間、官公庁向けシステム開発に携わっていたので、何度かキャリア官僚の方と仕事をさせて頂く機会がありましたが、ドラマのイメージとは随分違っていました。

キャリア官僚が私のシステムの担当に

ある中央官庁のシステム全面再構築を行っていたときのことです。

私が担当するサブシステムは、キャリア官僚のTさんが担当することになりました。
未だ32歳の若さでしたが、既に出先機関の署長を経験されていました。
ノンキャリアの人たちなら、優秀な人が50代でやっとつける役職です。

Tさんが担当になると告げられた時、私たちは緊張しました。
そんな偉い人に失礼なことをしたら、どんな災いがあるか分かったものではありません。

会社の幹部が私たちのところにやってきて「絶対に問題を起こすな。Tさんのキャリアに傷をつけたら大変なことになるぞ。」と言って脅します。
それなら技術者を追加してくれれば良いのですが、そんなことはしてくれません。

そしてTさんと初顔合わせの日がやってきました。
Tさんは、メガネを掛けたちょっと太めの方で、正直言って出来るという感じではありませんでした。

打ち合わせの後ちょっと話をしましたが、全然偉ぶることもなくとても気さくな人で、趣味は競馬と言っていました。Tさんが良さそうな人だったので、私たちはホッとしました。

常にプレッシャーが・・・

そして要件定義に入ったのですが、困ったのがノンキャリアのお客様が度々私たちのところを訪れて「進捗遅延は許されないからね。」と念を押していったことです。

私たちのサブシステムは、26のサブシステムの中でも重要度が低いシステムでした。
Tさんは業務系サブシステムの開発取りまとめと私のサブシステムの担当を兼任されていましたが、おそらく私のサブシステムの重要度が低いので、専任の担当者を置くのは無駄だと判断して、私のサブシステムの担当を兼任されていたのだと思います。

それがTさんが担当になったことで、まるで超重要サブシステムのようなフォローを受けることになってしまいました。

また、このプロジェクトでは定期的に監査があり、サブシステムごとに採点されていたのですが、私のサブシステムは1位を取らなければならなかったので、大変なプレッシャーでした。

でもそのお陰で、私のサブシステムは必要以上に順調に進んでいきました。

キャリア官僚は特別な存在

話しているとTさんが特別な存在であることを忘れてしまいがちでしたが、出張に同行した時、キャリア官僚が特別な存在であることが分かりました。

要件のヒアリングのため、大阪に出張した時のことです。
新大阪駅の改札を出ると、50代の男性が「Welcome」と書いたプレートを首から下げていました。
外国人の出迎えかなと思っていたのですが、よく見るとTさんの名前がローマ字で書いてあります。

男性はTさんを黒塗りのセダンに乗せ、そのまま走り去ってしまいました。

予想外の出来事に戸惑っていると、別の男性が声を掛けてきて私を別の車に案内してくれました。

一介の業者に過ぎない私だけでは迎えなど来ないのは当然ですが、ノンキャリアの方なら例えTさんと同じ役職でも迎えには来ないと思います。
しかも、車1台で乗れるところを2台に分けるところに、キャリア官僚の扱いの違いを感じました。

窮屈な面も

でも良いことばかりではなさそうでした。

以前は、キャリア官僚は官公庁の中で貴族のように振舞っている印象でしたが、実際に近くで見るとあまり自分の意思を通すことはできない様子でした。

ノンキャリアの方たち、とくに霞ヶ関にいる方たちは相当優秀です。頭の切れる方が多いですし、業務にも精通しています。
ノンキャリアの方たちは、キャリア官僚に傷をつけることなく次の部署に送り出すことを使命としています。
傷をつけないためには意思決定をさせなければ良いので、予めすべてのお膳立てをして最終決定だけをキャリア官僚に求めます。
もっと偉くなれば違うのかもしれませんが、32歳ではとても百戦錬磨のノンキャリアの方たちに敵うわけがありません。
キャリア官僚もそのことは十分わかっていますから、我を通すようなことはしません。
多少気に入らないことがあっても多少質問するだけで、上がってきた案を否定することはしません。

そんなTさんを側で見ているとちょっと窮屈そうに見えました。

個人的には20歳そこそこで一生を決めてしまう現在の公務員制度は反対です。
でも強力な身分保証がないと優秀な人材が集まらないという事情も理解しています。
それにTさんと仕事をして、彼らが楽なだけではないということも知りました。