4年前、突然、ホーチミンでマンションを買おうと思い立った。
いずれ、ベトナムに移住するつもりだったので、安いうちに買っておいた方が良いと思ったのだ。

まず、日本から、ベトナムの不動産会社のウェブサイトで物件を探した。
外国人向けの高級マンションは高すぎて手が出ないので、ベトナム人向けの安いマンションを探した。

良さそうな物件があった。
ホーチミンの中心部から徒歩15分、日本人街からは10分のところにあり、とても便利だ。
60㎡で2LDKとベトナムの基準で考えると少し狭いが、約800万円と値段が安いのが何よりも魅力だった。

そして正月休みに現地を見に行った。

1階に不動産会社の事務所がある。そこで確認すると最上階の部屋が売りに出ているというので、早速見せてもらうことにした。

やはり60㎡で2LDKというのは狭い。ベトナムでは、ベランダ等も含めた広さなので、日本だと50㎡くらいの感覚だろう。しかし、ベランダからの眺めは素晴らしかった。便利な立地や値段を考えると悪くない買い物だと思った。

「買います。」と不動産会社の社員に告げると彼女の顔がほころんだ。
おそらく相当な金額のコミッションが入るのだろう。
「早速、売主に連絡します。」と言って、彼女は事務所に戻って行った。

しばらくすると、彼女は困った顔をして戻ってきた。
「売主は売るのを止めたと言っています。」と彼女は言った。
仕方がないので、他の部屋を紹介してもらうことにした。

最上階の1つ下の階の部屋を見せてもらった。
その部屋には、賃借人らしき四人家族が住んでいて、床に座って昼ごはんを食べていた。
私は恐縮しながら、ざっと部屋の中を見せてもらった。先ほどとまったく同じ間取りなので問題はない。
値段は20万円ほど高いが仕方がない。

「この部屋を買いたいのですが」と不動産会社の社員に言った。
先ほどと同じように「売主に連絡します。」と彼女は答えた。

20分ほど待たされた後、「売主は親族会議を開いて売るかどうかを決めると言っています。」と彼女から言われた。
何を言っているのか意味が分からず彼女を問いただした。

私 「このマンションは売っているんですよね。」
彼女「そうです。」
私 「それなら、なぜ親族会議を開かないと売れないのですか。」
彼女「私には分かりません。売主の意向ですから。」
私 「値引きもしていませんよね。売主の言い値なのに何か問題があるのですか。」
彼女「私には分かりません。」

考えてみると彼女が悪いわけではない。
落ち着いてから、いつ親族会議の結論が出るのか確認すると、翌日だという。
それ以上はどうしようもないので、その日は帰った。

翌日になっても、翌々日になっても連絡はなかった。
私は、3日後に日本に戻った。

1週間後に、ベトナムに残った妻に売主から電話があった。
25万円値増ししたら売ると言ってきたそうだ。
当然、その申し出は断った。

買うと言ったとたん、売主が売らないと言い出すというのは、日本では考えられないことだ。
そんなことをすれば売主の信用がなくなってしまうし、仲介する不動産会社が許さないだろう。

しかし、ベトナムではよくあることだそうだ。
妻に言わせると、値引きをせずに直ぐに買うといったのがまずかったらしい。
売主は、もっと高くうれると考えるそうだ。

1件目の部屋の持ち主は、本当に売るのを止めたわけではなく、高くして再度売り出そうと考えたに違いないと、妻は言っていた。
2件目の部屋の持ち主は、1週間空けることで買い手を焦らしたつもりらしい。

ベトナムでは何事も一筋縄ではいかない。
でも、隣にいたんだから、その時に教えてくれと妻には言いたい。