オフショア開発失敗事例12 見積りが徐々に高くなっていった

みなさんは物を買うときに値引交渉をしますか?
日本では値引交渉をする場は限られています。しかし、その少ない機会を捕まえて楽しんで値引交渉をするタイプの人がいます。一方、値引交渉がまったくできないタイプの人もいます。
私は値引交渉がとても苦手なタイプです。
以前、友人と家電量販店にPCを買いに行ったとき、その友人はいきなり値引交渉を始めたので、びっくりしました。それまで、家電量販店は交渉での値引きはしないものと思っていたからです。

今回は、オフショア開発における見積りで値引交渉をうまく行えなかったために失敗した話をご紹介します。

最初の見積金額は予算よりも少し高かった

初めてベトナムにオフショア開発を発注したときのことです。
そのシステムは、30画面ほどのPHPのシステムで、詳細設計まで日本側で実施し、コーディングと単体テストをベトナムの会社に依頼しようとしていました。

仕様のやり取りが終わり、相手の会社から見積金額が提示されましたが、その金額が私の想定よりちょっと高かったのです。こちらの想定よりも2割ほど高い金額でした。払えない金額ではないのですが、リスク対策としてとっておいた費用がなくなってしまいます。
プログラム・ステップ数の見積りも添付してもらっていたのですが、そちらはずれていません。ですから機能の想定は大体合っているはずです。
それなのに高いわけですから、開発効率がこちらの想定よりも低いことになります。我々の基準値を説明して、値引させようと考えましたが、我々の基準値は、相手の会社には関係ありません。

結局、最初のプロジェクトなので「相手に無理な値引きをさせるよりも、相手の言い分を聞いて、実力を見極めたほうが良い」と考え、相手の言い分通りに払うことにしました。本当のところは、値引交渉が面倒臭いというのが多分にありました。

そして最初のベトナム・オフショア開発は可もなく、不可もなくといった感じで終わりました。
とくに良かったというわけではなかったのですが、元々の目的が、それまで中国一辺倒だったオフショア発注先を分散することにあったので、ベトナム・オフショア開発を継続していくことにしました。

2度目の見積りはさらに高くなっていた

それから1ヶ月後に次のプロジェクトの見積りをとりました。
すると予算よりも5割高くなっていたのです。前回の実績から2割増しは覚悟していましたが、5割は想定外です。
さすがにそのまま通すわけには行かず、TV会議で、オフショア開発側の課長に説明を求めました。

私 「この見積金額は高すぎます。この金額になった理由を説明してください。」
課長「書いてある通りの工数が掛かるからです。」
私 「なぜ、この工数が掛かるのかを説明して欲しいと言っているのです。」
課長「私たちの過去の実績値を元に算出しています。」
私 「前回よりも、ステップ当たりの工数が増加していますが、なぜですか?」
課長「・・・御社の予算はいくらですか?」
私 「今は、今回の見積りが高くなった理由を聞いているのです。」
課長「・・・」

それからいろいろ質問を変えてみましたが、高くなった理由も、相手の会社の基準値もちゃんとした説明はありませんでした。それよりも、相手の課長は、いくらだったら私が納得するのかを聞き出そうと必死でした。

この事例から得た教訓

今考えると大人げないことをしてしまったと反省しています。
あの課長は、ベトナム人としては当然の対応をしていたのです。

日本人には適正価格という考え方があります。適正価格から大きく外れた金額を提示するような相手は信用をなくしてしまいます。不正な利益を稼ごうとしていると思われるからです。

しかし、ベトナムは異なります。最初は大きな利益を上乗せした金額を提示するのが当たり前です。相手もそれを承知しているので、大きな値引きを要求します。最初に正直な金額を提示していたら、まったく値引に対応できなくなります。

このとき発注した会社は、ほぼベトナム人だけで構成されている会社だったので、日本とベトナムの見積りに対する考え方の違いを理解していなかったと思われます。

必ず、値引というプロセスが必要だというのは、日本人から見ると無駄と感じられますが、現地のルールなのでこちらが合わせていくしかありません。

この後は、最初に指値を出すことと、その指値は予算よりも2〜3割低めにすることにしました。