ベトナム戦争の本といえば開高健さんが有名ですが、私は近藤紘一さんの方が好きです。
とくに「サイゴンのいちばん長い日」という本が面白かったです。

近藤紘一さんは、1975年3月23日にサイゴンのタンソンニャット空港に降り立つところからこの本は始まります。
半年前に常駐特派員としての任務を終え日本に戻っていたのですが、北ベトナム軍の電撃的な攻撃により南ベトナム軍が中部諸省を放棄したことを受けて緊急派遣されました。

それから1ヶ月あまり後にサイゴンが陥落し、長く続いたベトナム戦争は終結します。

ひとつの国が滅びるという悲劇的な出来事なのに、この本に出てくるサイゴンの人々は、戦争が遠い国の出来事であるかのように日々を送っています。

政治家や軍人は、権力闘争や責任の押し付け合いをし、市井の人々は普通の暮らしを送っています。
そして危機が明らかになると、一変して逃げ場を求めてうろたえる様子が書かれています。

この本を読んで、人間は危険が迫っていても行動を大きく変化させることは難しいのだなと思いました。
命の危険が迫っていても変えられないのですから、社会の変化に対応できずに潰れて行く会社が多いのは仕方がないでしょう。

近藤紘一さんは、そのような様を居丈高に批判することなく、あくまで庶民と同じ目線で淡々と書いています。
つい政治的な見識を散りばめた文章を書いてしまいがちですが、彼の視線はあくまでも優しく、サイゴンで暮らす人々のことが生き生きと書かれています。

また、この本にはさまざまな建物や通りの名前が出てきます。
すっかり変わってしまったサイゴンの街ですが、今でも残っている建物や、名前が変わっていない通りもあります。
今までは何気なく通り過ぎていた道も、サイゴンが陥落したときに近藤紘一さんがそこにいたのだと思うと、通るたびに本に書かれた情景が思い浮かぶようになりました。